1月16日(水)に第8回目の期日(正確には弁論準備手続き。原告のみ傍聴可能)がありました。以下では、1で、当日の議論の様子を紹介します。2では、今後の展望についての明日香の個人的な見方を簡単に述べます。
1.期日でのやりとり
当日は、原告側が、先回での議論を踏まえた資料を用意しました。これを説明すると同時に、下記のすでに提出済みの質問に関して主に内山専門委員との間で議論がありました。
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質問1 PM2.5に関しては、発がん性を含む健康被害影響が問題となっており、国際がん研究機関(IARC)は、遺伝毒性や疫学的な観点などからグループ1(発がん性がある)に分類しています。このようなPM2.5による健康被害に閾値濃度はあると考えますか?
質問2 日本における最近のPM2.5濃度の減少傾向、国内外におけるPM2.5の健康リスクに関する知見の増大などを鑑みて、日本国民が受ける健康被害の低減という意味では、WHO(世界保健機関)の指針も参考にして、米国と同様に日本でもPM2.5の環境基準を引き下げる(厳しくする)方が、研究者としては望ましいと考えますか?
質問3 (WHOなどによる)Global Burden of Disease(世界の疾病負担研究)プロジェクトなどでの大気汚染による死亡者数計算の方法論は妥当だと考えますか?
質問4 Global Burden of Diseaseプロジェクトと同じ方法論を用いて原告側が計算した仙台PS稼働による死亡者数等の計算は妥当だと考えますか?
質問5 国際社会では、地球温暖化対策や大気汚染対策へのより積極的な対応の必要性がコンセンサスとなっており、多くの先進国が石炭火力発電所の具体的なフェーズアウト(段階的廃止)のスケジュールを決めています。一方、日本は先進国で唯一、新たな石炭火力発電所の建設が大規模に進められています。環境問題の専門家として、このような現状を日本のあるべき姿として考えますか?
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結論を言うと、内山氏は、PM2.5閾値に関しては、2011年の日本の環境基準設定の際の合意である「あるかどうかはわからない」という立場に少々固執していました。原告側の明日香は、「2011年以降、世界でも日本でも様々な研究結果が発表されており、それらのほとんどが閾値はないことを支持している」と主張しました。
また、内山氏は、日本での疫学調査結果と欧米での疫学調査結果の違いについても若干強調していました。これは、欧米での相対危険(死亡率上昇割合)の数値を日本にそのまま適用することに問題があることを示唆しています。
さらに、前回、「心肺疾患と虚血性心疾患の相対危険(死亡率上昇割合)をそれぞれ使うのは、虚血性心疾患が心肺疾患に含まれるのでダブルカウントではないか?」という内山氏からの質問がありました。この問題は、ダブルカウントという種類の問題ではなく、相対危険(死亡率上昇割合)としてどのような数値を使うかというキメの問題です。
あと、内山専門委員から、NO2の死亡者数に関して、閾値をどのように設定しているのか、という質問があり、明日香が20μg/m3と答えました。これに対して、仙台で一般的な濃度は、その閾値よりも低いのではという内山専門委員のコメントがありました。これに対しては、明日香が、計算を委託した研究者に「確認する」と答えました(現在、再計算中です)。
内山専門委員の質問やコメントは、主に、計算に用いた前提やパラメーターに関するものです。それらの多くに対しては過大という批判と過小という批判の両方が可能です。もちろん、精査は大事なのですが、どのような数値を使うかは、前述のように、結局は、キメの問題でもあります(細かく議論しだすときりがないです)。
なお、裁判長から「本件は平穏生活権で整理できるのでは?」というコメントがありました。
2.今後の展望
次回の期日(原告のみ傍聴可能)も、基本的に同じような細かい議論になると思います。なお、大気拡散モデルの専門委員に関しては、原告側が推薦した大原利真国立環境研究所フェローを裁判所として選任する方向で動いています。正式な決定はまだ先のようですが、大気拡散モデルによる濃度上昇値の評価は非常に重要なので、専門委員に対しては説得力のある議論をする必要があります。