3月13日(水)に第9回目の期日(正確には弁論準備手続き)がありました。以下では、1で、現在の主な争点を紹介します。2では、今後の展望についての明日香の個人的な見方を簡単に述べます。
1.主な争点
当日は、前回と同様に、原告側と内山専門委員との間で大気汚染による死亡者数の推算に関する細かい議論が行われました。その後、内山委員から追加の質問も文書でありました。
それらを整理するために、現在、原告側は以下の点などに関して再計算し、それを感度分析の結果として提出する予定です。
①PM2.5相対危険 虚血性心疾患の相対危険を心肺疾患の相対危険に変更
②PM2.5相対危険 PM2.5による健康被害に関する最新の疫学研究知見の数値を利用
③PM2.5排出量 ばいじんとの比率として日本の実情に合った数値を利用
④NO2の閾値設定 バックグラウンドNO2濃度として直近の観測値を利用
⑤NO2の閾値設定 NO2による健康被害に関する最新の疫学研究知見の数値を利用
将来の死亡者数の推算は、上記のような前提やパラメーターを変えることによって変化するのは当然です。ただ、変化するものの、それほど大きくは変化しないことを示すことが出来ればと思っています。
もう一つの重要な論点は、「わずかな濃度上昇の影響をどう考えるか」です。これに関しては、個人的には、以下のようなロジックを考えています。
第一に、「わずか」というのは、あくまでも相対的なものです。
第二に、現在、多くの研究が、日本においてはPM2.5などによる死亡者が現状で数万人発生していると報告しています。そのような状況においては、PM2.5などの濃度が上昇すれば、有効数字などに関係なく、その濃度上昇の大きさに見合って死亡率が上昇します。その結果は、この裁判で提出しているシミュレーションの推算で示したように、仙台PS近隣での死亡者数は1をはるかに超える可能性が高いというものです。これは、仙台PS近隣で実際に連続殺人事件が起きており、原告および近隣住民が被害者となる可能性が高い状況と同じです。決して「小さい」出来事ではありません。言うまでもなく、裨益がほぼゼロの中、このような状況は、原告を含む近隣住民が無視できる状況ではなく、このような状況で生活を強いられるのは、明らかに人格権侵害と言えると思われます。
なお、数値が小さいとして無視するのであれば、すべての「相対的に小さい」排出源からの排出は容認されることになります。それは論理的に、そのような小さな数値の総和である日本全体のPM2.5などの大気汚染による死亡者数(最新のWHOなどの推算では年間約6万人)も無視することになり、全体的な現状を改善することは不可能となります。
2.今後の展望
あと数回は、死亡者数の推算に関する内山専門委員との細かい議論が続くと思います。なお、大気拡散モデルの専門委員に関しては、原告側が推薦した大原利眞国立環境研究所フェローは、一昨年開催した原告対象セミナーに講師として招いていたことから、裁判が始まる前に原告と接点があったことを裁判所がどう判断するかを待っているところです。なので、まだわかりませんが、専門委員としての選任は難しいかもしれません。専門委員の選任には半年ほどかかるそうで、裁判官は、もし大原氏が選任できない場合には専門委員無しで裁判を進める方針であると述べました。
3.最後に
次回の口頭弁論期日は、5月22日(水)です。是非とも傍聴をよろしくお願いいたします。
(明日香壽川)
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