5月22日(水)13時半から第10回目の期日がありました。約15名の原告が傍聴にかけつけてくださいました。今回も大阪地裁にいる内山専門委員が、テレビ会議方式で参加する形で行われました。ただし第7回から第9回までが「弁論準備手続き」として原告・被告以外の傍聴を許さない形で行われたのに対し、今回からは一般の方の傍聴も可能な形で開催されました。裁判官は、裁判長と左右の陪席裁判官の3名で構成されますが、今回から右陪席(男性)の裁判官が新しい方に交代しました。左陪席(女性)の裁判官は3月から交代しています。
1.当日の主な論点
当日の主な論点を紹介いたします。
1)原告側が推薦した大気拡散モデルの専門委員は、この方が裁判開始前に原告側の説明会に登壇されていたことから被告側が選任に異議をとなえ、大変残念ですが、選任されないことになりました。
2)中島裁判長から個別の健康被害(原告Aさんや原告Bさんなどに具体的にどういう健康被害があるのか)の立証予定をたずねられ、原告側は、7月24日までに、個別健康被害に関してどのような主張を行い、いつまでにどのように立証するのか、具体的な方針を明らかにすることを約束しました。
3)原告側は昨年10月に実施した第1回目の健康影響調査結果(原告とその家族を対象に、2018年7〜9月と2016年7〜9月の健康状態をたずね、その結果を比較したもの)の概要をまとめ、甲A26号証として提出していますが、これについて、被告側から表の読み取り方などの細かな点に関する確認的な質問があり、原告側は6月12日までに回答することになりました。
4)続いて内山専門委員と明日香壽川先生との間で質疑が行われ、甲A11号証(ラウリ氏らによる仙台PSの稼働による早期死亡者数の推算結果)の推算方法について、内山専門委員から、人口の入れ方、死亡率のデータの出典、誤差の大きさの評価などについて確認的な質問があり、明日香先生が回答しました。内山専門委員からは、脳卒中と虚血性心疾患の数値の記載ミスを正したものやNO2の閾値を考慮した再計算結果を提出するよう要請がありました。内山専門委員からは、「甲A11号証の基本的な手法が間違っているとは言っていない」という発言がありました。5月19日付けの内山専門委員からの意見概要の末尾には「現状のPM2.5濃度が、環境基準を満たしていない状況では、これ以上不要なPM2.5の生成や排出を極力減らすべきであることは、環境基準の定義からも明らかであり、私もそうあるべきと思っている」と記されています。
5)内山専門委員と明日香先生の見解がもっとも大きく分かれるのは、PM2.5の閾値の有無(第8回期日の焦点)と「わずかな濃度上昇の影響をどう考えるか」という点です。明日香先生はPM2.5に閾値はなく、「有効数字などに関係なく」わずかな濃度上昇の大きさも考慮すべしという見解です。一方内山専門委員は、①PM2.5に閾値があるかないかは確定できない、②推算にあたってPM2.5に閾値がないと仮定するにしても、年平均値10μg/m3付近以下の低い濃度地域に計算式を当てはめることの信頼性を問い、また10μg/m3のように測定値の有効数字が1の位であるのに、0.00XXμg/m3という小さな上昇量は意味はない、この程度の上昇量は実測できない値であり、モデルの妥当性も検証できないと批判しています(5月19日付けの内山専門委員からの意見概要)。
2.今後の進行
今後の進行は、中島裁判長と原告・被告側の協議により、以下のとおりとなりました。
(1)7月24日までに、原告側は、①これまでの内山専門委員とのやり取りをふまえた甲A11号証の改訂版とNO2の閾値を考慮した再計算結果を含む別紙形式での補充内容を提出する。②甲A11号証の早期死亡の推算結果が、原告の権利侵害とどのようにかかわるのかについて、法律論の観点から原告代理人が説明する。③個別健康被害に関してどのような主張を行い、いつまでにどのように立証するのか、具体的な方針を明らかにする。
(2)内山専門委員の臨席は、次回8月7日で終了予定。積み残しがあった場合にのみ10月30日の次々回法廷にも臨席する。
3.今後の焦点
中島裁判長は、身体的人格権の主張には個別の健康被害についての立証が不可欠だという旨を、この日の法廷で2度繰り返しました。早期死亡の推算結果に一定の信頼性を認めうるにしても、それは平穏生活権の侵害を裏付ける証拠にしかならないというのが裁判長の一貫した姿勢です。個別の健康被害をどう立証するかが、裁判の今後の大きな焦点となります。
差止請求権の根拠としては、平穏生活権は身体的人格権に比べるとやや弱いものにはなりますが、「身体的人格権に接続したものとして」平穏生活権を主張していくことが鍵となります。したがって、早期死亡と平穏生活権との関係もとても重要な焦点です。
もっとも影響の大きい多賀城市の場合、PM2.5の濃度上昇に由来する早期死亡者数は人口10万人あたりに換算すると1.18人となります(2019年5月21日付け追加質問書に対する回答書(正))。10万人に1人の発ガン率のリスクも無視できないことは、内山専門委員も認めています。原告側としては、仙台PSの稼働によって、10万人に1人以上という死亡率(発ガン率よりはるかに高い)の上昇のリスクのある地域で、原告が居住せざるを得なくなったということは、受忍限度を超える平穏生活権の侵害である、という主張をしていくことになるでしょう。
中島裁判長からは、審理の目途は提訴から2年程度であるとの発言もありました。
2017年9月27日に提訴したこの裁判も、8月と10月の法廷で、大きな山場を迎えることになります。
5月27日には横須賀でも、東京電力・中部電力の子会社による石炭火力発電所(65万kW×2基)の建設を阻止するための、国を相手取った行政訴訟が始まりました。石炭火力訴訟としては、仙台・神戸(民事と行政訴訟)に次ぐ日本で4つ目の訴訟です。仙台の訴訟の行方は、神戸や横須賀の訴訟の原告団・弁護団からも注視されています。8月と10月の法廷の傍聴もよろしくお願いいたします。
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